名古屋大学工学部長との懇談
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1996年秋、ベネッセ・コーポレーション主催の交流会で、名大工学部長と懇談する機会があった。
懇談を通して、「大学に合格させるだけの近視的な指導だけではいけない。長期的視点をもって
指導しなくては」との感を新たにした。そして、「そのために物理科では何ができるか」と考えるチャ
ンスを得ることができた。以下、交流会の直後に校内で配布した出張報告を紹介する。
平成8年(1996年) 11月18日
名古屋大学工学部長と懇談して(出張報告)
浦崎 太郎
11月16日(土)午後、ベネッセ・コーポレーションの主催により名古屋市内で開催された名古屋大学教官と
高校教師が語る会の二次会(立食パーティ)において、名大工学部長と同じテーブルになり、約1時間半に
わたって懇談することができた。以下、懇談の際の話題や感想をレポートする。
・ 大学改革は想像以上に進行している。
・
我々教員・生徒・保護者は、大学改革の実態をもっと知った上で、進学にむけた準備を進める必要がある。
大学入試に関する大学側の見解
* 「入試合格者」と「工学部適格者」にズレのあることはよく認識している。
* 「公平性の確保」の観点から、入試制度や試験内容の変更は難しい。
〜 制度をどう変更しても、結局は「制度への適応力」の高い者が入学してくる。
名大入試に合格できても工学への意欲や適性に乏しい者
* 工学部ではドロップアウトが大きな問題になっている。
〜 入学者の1割が退学(=留年・休学は別)。教授会で毎月10名程度の退学者が報告される。
〜 せっかく名大に入学しても、退学してしまっては何の意味もない。
〜 「入試であんなに難しい問題を解けたのに、1年たつとどうしてこんなにバカになるのか」ということが、教官には不思議でならない。
〜 学生の学問に対する意欲の低下が問題。
〜 入試を目的としていること、入試以外の勉強をしてこないことが大きな問題。
(特に、高2段階での文理コース分けには問題がある)
そのために…
* 出口(=卒業)を狭くすることで、不適格者の入学を防ぐ方策を考えている。
〜 これまでは「入学者はすべて卒業させる」という暗黙の前提があった。
〜 卒業は「単位の積み上げ」ではなく、「卒業に値する力を持っているか」を審査して決める方向で議論を進めている。
工学への意欲や適性はあっても名大入試に合格できない者
* 名大への「入口」は広げている。
〜 18歳での入学(=学部)だけでなく22歳での入学(=大学院)のチャンスがある。
* どうしても名大で学びたければ、大学院への入学を考えよ。
〜 工学部で学べる内容は基本的にどこでも同じ。東大にあって名大にない学科はない。
〜 とりあえず入れる大学に入学し、大学院で名大を考えては? →「名大大学院修了」に。
〜 名大は、大学院に重点を置いて改革を進めている。
〜 工学研究科は他大学(岐阜大・三重大・静岡大・信州大等)からの入学が30%以上。
社会の工学部への要請
* これまで、社会も技術者も、前だけ見て後ろを見てこなかった。即ち「豊かさ・便利・快適・効率etc.」という
前方のプラス要素だけを追求してきたが、気づいたら後ろには夥しいマイナス要素(廃棄物等)が残されて
いた。差し引きすると、そんなにプラスにはなっていないのではないか?
* 望まれる人間像は一言でいうと「起業家」。何もないところから新たな産業を興せる人間。
〜 今までは真似するモデルがあった。今は、真似すべきものは世界のどこにもない。
〜“自動車産業が斜陽化したとき、次の産業を起こすのは自動車業界の人間か?”
* 様々な分野の人間と連携して新しいものを創造する、チームワーク力はぜひ必要。
〜 「他分野の人間と組んだら何ができるか?」というセンスが重宝される。
名大工学部の改革
* 大学の設備は、飛躍的に向上している。
〜 参考 工学部は入学定員約900人。名大全体に対して学生3割・教官4割・予算6割。
〜 予算規模は過去5年間に増大。大学は今「金がない」とは口にできない。
〜 意欲ある学生は国際学会にどんどん行ける。(能力開花のチャンスが拡大している。)
* 教養部廃止で、より充実した教育課程を実現している。
〜 地球環境問題への取り組みに不可欠な文系的要素(法律・経済・倫理)は、必要ならば、
必修科目として履修させる方向で考えている。
高校生への広報
* 工学部教務係が窓口になっている。
〜 あらゆる成果・情報はすべて印刷して揃えてある。(積み上げると1m以上になる。)
* 高校生がもっている誤ったイメージ
<例> 「航空機産業に就職するためには航空学科に入学しなければならない」
→ 答は×。航空学科より化学系学科の方が有利。理由は、推進関係は外国企業が独占し、日本企業は胴体だけ。
したがって、素材の専門家が必要。航空学科からは、 ごく一部を除いて、ほとんどが(航空)自衛隊へ就職している。
… こうした誤解の例は数知れない。
* 高校生むけの広報には力を入れている。
〜 高校生むけの公開講座(毎年8月・3月実施)に、年間500万円の予算を計上している。
〜 高校への出張講義は、できる限り対応している。
当方から工学部長への要請
〜 高校生の質問に答える専任の人員を配置し、専用の電話回線を開設して、
「名大工学部で学べる内容」と「この分野を学べる大学」の双方に答えられるようにしてほしい。
- 以上 -
★ 当時の状況では「専用電話」が良いと考えていましたが、今日の状況ではHPを充実していただければOKですね。