プルーストと文末強調構文


フランス語は後ろを安定させる傾向にある。アクセントは文末にある。形容詞は名詞の後につく。長い主語は倒置される。不正確な断定はお許し願おう。こうした特性のすべてが後の要素に注意を払わせる。文末要素の強調構文を自然なものにする条件は本来フランス語に備わっている。

では文末強調構文とは何か。文法的な強調構文としてc'est〜que(qui)というのがある。強調される要素が前にくる限りにおいてそれは文頭強調構文である。われわれはその逆のケースを想定できよう。つまりque(qui)以下の節に相当する部分が示された後でc'estが強調される要素を導くというものである。que(qui)やc'estの有無はともかくその種の構文が文末強調構文である。

『失われた時を求めて』の最後の一節が文末のTempsの強調で終わっている点を考えてもこの構文の基本的な重要性を理解できよう。にもかかわらず文末強調構文をひとつの文型としてまとめて記述した研究者はいない。そこで本稿ではプルーストの総合文におけるポピュラーな強調の道具としての文末強調構文の諸例が吟味される。原文引用の指示はプレイヤードの巻とページの略号でなされる。

次の諸例では強調される文末はc'etaitその他に導かれる。その文語の指標はコロンである。その口語の指標は通常ceとetreの変化形である。

[...];il ne pouvait vraisemblablement y avoir qu'une seule femme ressemblant au portrait de Mme de Guermantes[...]: c'etait elle!(Ι,174)これまで思い描いていた理想像と異なり,鼻に吹出物のある赤ら顔のゲルマント公爵夫人を実際に見た話者の失望を強調した一文。直後の文脈に「私の失望は大きかった」とある。

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Pendant ce temps il y avait une personne qui ne quittait pas des siens[...]: c'etait Francoise.(IΙ,319)家族が目をそむけている瀕死の祖母の変わりはてた顔から片時も目を離さないでいる女中のフランソワーズに対する驚きが強調されている。直後の文脈で話者はそんな彼女の心理を分析にかかる。

[...]la chute s'etendant,se reglant,adoptant un rythme,devenant fluide,sonore,musicale,innombrable,universelle: c'etait la pluie.(I,101-2)文末強調構文の典型的な用例をなす一文である。雨の落下の過程とその音楽的なリズムが列挙を通して忠実に記述されている。しかし「雨」であることが示されるのは文末である。

[...]c'etait M.et Mme Bontemps qui etaient nommes[...]entre la duchesse de Vendome et le prince d'Agrigente,et les peles[...],c'etait les Cottard.(I.523)上流社交界の卑俗な仲間としてライバル意識を燃やすボンタン夫人とコタール医師。とある晩餐の出席者の顔ぶれを後で聞かれたときの彼らの滑稽な話しわけが問題となっている。直前の文脈に主催者であるヴァンドーム夫妻とコタール夫妻を同列に並べたあとで,申し訳程度に「スープに落ちた髪のようにやってきた」ボンタン夫妻を言い添えるコタールのことばが見られる。逆に本例では「招かれもしないのに押しかけてきて席を汚した馬の骨」としてコタール夫妻の名を最後に添えるボンタン夫人の皮肉なことばが説明されている。

[...]j'avais pu trouver que M.de Charlus avait l'air d'une femme: c'en etait une!(II,614)問題となるのは文末要素の心理的な強調である。ある日シャルリュス氏が女の姿に見えた理由を理解する話者。彼はまぎれもなく男性なのだから,「彼は女性のひとりであった」という文末の断定は論理的にはおかしいことになる。しかし話者の解説によれは,彼は「その気質が女性的であるために男性的であることを理想とする,見かけに矛盾のある人間である」。

[...];ce a quoi il me faisait penser[...],c'etait a une femme.

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(ΙI,604)男らしさを売りものにしているシャルリュス氏の女性的な素顔を垣間みた話者の驚きを示す一文。本例は段落末に位置する。

[...]c'etait un etre,non pas Albertine,non pas un etre que j'aimais,mais un etre plus puissant sur moi qu'un etre aime[...]c'etait ma tante Leonie.(III,78-9)話者が病弱な肉体と旺盛な猜疑心を受けついだ「レオニー叔母」の存在が強調されている。アルベルチーヌとの同棲生活のなかで自分との「共通点などひとつもないと考えていた信仰にこりかたまった」叔母に次第に似てきた話者の皮肉な自覚が問題となっている。

[...]ce que mes raisonnements diriges par mon desir m'avaient peu a peu fait nier,c'etait vrai!(II,1117)恋人のアルベルチーヌがヴァントゥイユ嬢と同性愛の関係にあることを認めねばならなくなった話者の失望を示す一文。

Ce meme incident amena au contraire quelqu'un d'autre a me faire une confidence; ce fut Aime.(ΙΙ,989)シャルリュス氏が伊達男に変身した従僕といっしょに親しそうにしているところを見た召使たちの疑いのまなこが問題となっている。文末のエメは料理長の名前である。

[...]tout ce qui n'est pas fonde en verite,tout ce qui n'est que contingent mais revele aussi d'autres lois: c'est l'Histoire!(III,675)母との旅行の間,世間話や思い出話に花を咲かせる話者。その詩的な感興や霊感が哲学や芸術のではなく,歴史のミューズによって得られることを強調する一文。かなり長い総合文なのでtout ce qui(que)の3度の反復は文末要素の強調を助ける。本例は段落末に位置する。

Car il y a dans ce monde ou tout s'use,ou tout perit,une chose qui tombe en ruine[...]: c'est le Chagrin.(ΙII,695)ジルベルトとアルベルチーヌに対する当時の自分を回顧する話者。しかしかつてはあれほど彼を苦しめたこの2人の女性の存在も今はまったく気にならない。そんな苦悩や悲しみの一過性を強調する一文。

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ボーダライン・ケースをなす次の3例では強調される文末要素を導くのはceではなくてjeやelleである。

Je ne pouvais partager ses previsions,car je n'avais pas reussi a abstraire[...]mon amour[...]; j'etais desespere.(I,492)娘のジルベルトへの恋慕の情を父のスワンに知られて,彼に送った弁解の手紙も彼の軽蔑を強めることにしかならなかった話者の絶望を示す一文。

[...]; mon corps avait voulu obtenir[...]ce qu'il meritait de pitie[...]; elle n'etait pas de son ressort.(I,497)話者の窒息症状と祖母の優しさを示す一文。ここでは精神的な事象(愛情)が肉体的な物(病気)に及ぼす影響の大きさが強調されている。

Pour n'avoir pu aimer qu'en des temps successifs tout ce que m'apportait cette Sonate,je ne la possedai jamais tout entiere: elle ressemblait a la vie.(I,530)全体を把握することを望む話者の意に反して,断片的にしか見通せないヴァントゥイユのソナタ。それを人生にみたてることによって理解できなかった芸術の深さを強調した一文。

次の諸例では強調される文末は同格的な1語句である。直前の要素の簡略な言い換えによって示される。その文語的な指標は通常コロンとギュメである。その口語的な指標は口調の変化であろう。強調構文の指標であるc'estその他の語句が省略されたものだと考えられよう。

Et tout d'un coup deux mots atroces,auxquels je n'avais nullement songe,tomberent sur moi: <le pot>.(III,339)何かを割ると言おうとしてあわてて顔を赤くして口をつぐんだ恋人のアルベルチーヌ。後日その何かを復元しようとしてふとその意味に気づく話者。その問題の語の強調である。

[...]elle affectait[...]d'eprouver un irresistible desir d'aller embrasser le dromadaire et le crapaud qu'elle appelait: <cheris>.(I,221)オデットの部屋のマントルピースのうえにある

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「ルビーを目に入れた象眼細工の銀の一こぶらくだ」と「硬玉のひきがえる」が問題となっている。dromadaire,crapaudと文末のcherisとの間には対比がある。「それらの怪物の姿をこわがるかと思うとその奇妙さを笑ったりする」彼女の逆説的な気まぐれを示す一文。

[...]un meurtre symbolique souvent lui aussi,la simple hesitation a se battre ou le refus de se battre pouvant signifier pour une nation: <perir>.(II,261)国家の存亡を左右する国民の利己主義が問題となっている。金はいらないような口振りで実は欲しくてたまらない囲われ者のように利害関係において本音と建前を使いわける人間の本質が説かれている。

[...]il repondrait par un autre mot tout aussi banal mais sous lequel le ministre de la nation ennemie verrait aussitot: Guerre.(ΙI,260)一見無意味で衒学的な政府の公式発言のなかにある重大さを強調する一文。外交官の平凡な一言のなかに戦争か平和かを決める国家の決断が秘められていることを説く話者。国家の尊厳を維持するためである。

[...]chez des femmes qui ne seraient pas sans cela menteuses,il est une defense[...]contre ce danger[...]: l'amour.(IΙΙ,615)「全生命を破壊することも可能な突如としておこる危険」という遅らせ的な言い換えのあとで文末要素の「愛」が強調されている。問題となっているのは恋愛のなかで女の嘘が果たす組織的な役割である。

[...]: c'est que ce restaurant([...])portait le meme nom que la rue habitee par Odette: Laperouse.(Ι,296)以前は料理を味わうために行ったレストランに今は別の理由で足を運ぶスワン。「ロマネスクと呼ばれる同時に神秘的で馬鹿げた理由」という逆説的な表現による遅らせのあとで,その理由というのが文末で強調されている。

[...]ils m'ont convie[...]a la chose la plus impossible a concevoir[...]et qui s'appelle,si j'en crois la carte d'invitation: <the dansant>.(ΙII,268)「到底考えられない実現不可能な

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催し」という遅らせ的な言い換えのあとで文末要素の「踊る茶会」が強調されている。問題となっているのは「お茶[会]」を意味するtheと「踊る」を意味するdansantとのあいだの対比である。

C'est en ce double sens,en effet,que joue avec le nom de Saylor cette devise qui est: <Ne scais l'heure.> (II,1086)クレシー氏の古城に刻まれている彼の先祖であるSaylorにちなんでつくられた銘に対する話者の賞賛を示す一文。本例は段落末に位置する。その銘を示す文末要素は話者によれば,「ここに巣くった猛鳥の一族がかつてその鵬翼をのばそうとしたときの勃々たる雄図をあらわすものともとれれば,また今日では,このそびえたつ荒寥たる隠遁所にあっての,没落への諦観,迫る死への待日ともとれ」る。

[...]l'ensemble du monument qui ne ressemblait pas a ce que m'avaient montre ces mots: <eglise presque persane>.(I,842)評判とは異なりバルベックの教会にペルシア的な要素をまったく認められない話者の失望が強調されている。文脈では画家のエルスチールによってバルベックの教会が本場イタリアのすべてのものより「千倍もすぐれている」という審美的な一面の真理が語られている。評判と真実との間のギャップが問題となっている。

Je rehabiliterais[...]l'usage de la pipe d'opium et du kriss malais,mais j'ignore celui de[...]la montre et la parapluie.(I,92)本例はコロンもギュメもないが文末要素の同格的な強調をなしている。話者の友人でユダヤ人青年のブロックのことば。彼のことばはいつでも逆説と皮肉を含むことに注意されたい。「阿片のパイプやマレー人の短剣よりもはるかに有害で,俗悪なブルジョワ臭を放つ用具」という表現による遅らせのあとで,「時計と傘」が逆説的に強調されている。最後に短い直接話法の要素が文末にくる諸例も問題となるように思われる。その文語的な指標は通常コロンとギュメである。その口語的な指標は口調の変化であろう。それが間接話法であれば強調構文にはならない。会話や独白の部分をピリオドで完全に切り離すこともできるのに,プルース

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トはそれを好まない。

Alors je ne me suis pas demande[...],mais je me suis involontairement ecrie: <L'Eglise!>(・,62)「芸術的な美」も「宗教的な躍動」もない荒けずりなコンブレーの教会に優位をあたえようとする逆説的な強調である。本例は段落末に位置する。次の段落の冒頭の一文もL'Eglise!で始まっている点を考慮されたい。

A son patriotique appel saurez-vous ne pas rester sourds et repondre: <Present!>?(II,245)ブロックを相手に得意の弁舌をふるう外交官ノルポワのことばが問題となっている。本例は段落末に位置する。話の最後にvousを使って相手を質問攻めにする大使のやりくちはブロックを「たじたじとさせる」と同時に,彼の「誇りをくすぐる」。

Qu'on ait besoin de moi,je suis toujours la pour repondre: <Present.>(ΙI,824)カンブルメール老夫人から昼食会に誘われた話者につめよる裁判所長。夫人と不仲の所長は彼女の誘いを受けなかった腹いせに彼女が去ってから話者に負け惜しみを言う。段落の最後で彼のそらぞらしいことばは話者によって皮肉られるように,おおげさな口調が目につく。

Quand il fut mort,Francoise recueillit le sang,qui coulait sans noyer sa rancune,eut encore un sursaut de colere,[...]dit[...]: <Sale bete!>(Ι,122)若鶏をしめ殺す女中のフランソワーズのサディスムを示す場面。「死物狂で抵抗する」若鶏に逆上した彼女は直前の文脈でSale bete!をくり返す。その駄目押し的な皮肉な強調である。

Nous nous etions beaucoup moques autre fois,ma mere et moi,de Mme Sazerat qui disait en parlant des domestiques: <Cette race, cette espece.>(IΙ,65)昔は素直に笑えた事柄に今は笑えない話者。召使の性格のなかに「自身の生まれつきの欠点=ユダヤ人であること?」を見つけてカーストを意識せざるを得ない話者の苦悩が強調されている。

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[...]je murmurai ces mots que personne n'entendit: <Je suis perdu!>(Ι,36)寝るべき時間に起きて母を待つ幼時の話者。父に見つかって叱られると思った彼のあきらめを示すことば,本例は段落末に位置する。この段落で悲劇的なムードを最大限に高めておいて,次の段落でこの件を落着させる。

[...]d'effroyables images[...]qui les plongeaient dans la stupeur si un hasard les leur montrait en leur disant: <C'est vous.>(II,273)人間の虚像(自画像)と実像(他人が描く肖像)の開きを知らせる強調。

[...]comme si je les rattachais[...]au plaisir que j'avais a me dire: <J'entends enfin la Berma.>(II,50)ラ・ベルマの演じる『フェードル』を最初に観たときの話者の失望が回顧されている。そのときは彼女を事前に賛美しすぎた反動で彼はその芸術的な価値を認められない。そのときの彼の拍手は中身を理解してのものではなくて,彼の先入観によるものであった。

[...]le petit personnage barometrique se sentira bien aise,et otera son capuchon pour chanter: <Ah! enfin, il fait beau.>(III,12)コンブレーの眼鏡屋が天気を知らせるために店の前に置いていた小人の晴雨人形が問題となっている。その小人は「陽がさすと頭巾をとり,雨がふると頭巾をかぶる」のである。ところで話者の呼吸困難の発作は雨がふるとおさまる性質をもつ。そこでこの人形の動きは雨をのぞむ話者にはうらめしいものとなる。そんな皮肉を示す文末要素の強調である。

Μais apres avoir celebre le <palais> de sa cousine,elle s'empressa d'ajouter qu'elle preferait mille fois <son humble trou>.(II,669)いとこの豪奢な家を紹介するのに機知を示さずにはおかないゲルマント公爵夫人の皮肉な言いまわしが問題となっている。文末要素は数字の誇張表現によって強調されている。palaisとhumble trouとの間に対比がある。直後の文脈にも「見物するにはすばらしいと

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ころ」といった皮肉な賛辞が見られる。

Il m'aurait paru que ce pere de Swann etait un monstre,si mon grand-pere[...]ne s'etait recrie: <Mais comment? c'etait un coeur d'or!>(I,15)妻の死後,変わった言動に出るスワンの父を変人扱いする話者と根は優しいことを強調する友人の祖父。un monstreとun coeur d'orとの間に対比がある。人間の二面性の強調である。

Elle s'extasiait[...]disant a maman: <Sevigne n'aurait pas mieux dit!> et[...]d'un neveu de Mme de Villeparisis[...]: <Ah! ma fille, comme il est commun!>(I,20)「気品は社会的地位とは絶対に無関係な何かである」と考える話者の祖母の逆説的な気まぐれが問題となっている。こうして本例ではチョッキ仕立屋のことばが高く評価され,逆にヴィルパリジ侯爵夫人の甥は低く評価される。直前の例がプラスの強調であったのに対して,本例はマイナスの強調である。

Rien[...]ne pouvait leur faire supposer qu'il etait[...]l'amant d'une femme dont elles allaient dire: <Quel chameau!>(II,614)うわべを飾りたてている人間の裸が誰かの時宜にかなった一言で透いて見えるという真実を説いた一文。

[...]elle interpellait un gardien a qui elle faisait un geste amical[...]en lui criant: <Quel joli temps!>(I,405)料金をとりにきた貸椅子屋の女にも「花束のように」切符を渡す老婦人の印象的な人の好さを示す一文。Quel joli tempsはQuel beau tempsの表現的な言い換えであることに注意されたい。妻をなくしたスワンの父の異常な陽気さ(I,15)や,人生に達観したルグランダンの美辞(I,126-7)にも似た何かがある。懐疑主義者であるプルーストはこの種の美辞の裏側にあるものを感じとっていた。

[...]s'ils ne vous glissaient a l'oreille en vous montrant un vieux monsieur qui passe: <C'est Jeanne d'Arc.>(III,244)奇妙な言動ではじめてそれとわかる狂人にたとえることによって,大夜会に呼ばれている名士たちの会話の異常性を強調する話者。男色趣味を感じ

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させる彼らとシャルリュス氏との会話が問題となっている。

[...]la Deesse disait-elle sur ce ton d'ironie([...]): <Voulez-vous des bonbons?>(II,43)うわさに聞いていた大女神のようなゲルマント大公夫人と実際に見たきさくそうな彼女とがかけはなれていることに思いやる話者。ボンボンをやるとき「彼女はうす笑いを浮かべていたために」彼女のきさくさは儀式か演技にすぎないと彼は考える。DeesseとVoulez-vous des bonbons?との間に対比がある。

[...]a toutes les questions passionnees de l'huissier[...],le duc s'etait borne a repondre[...]: <I do net speak french.>(II,634)とある青年[=シャテルロー公爵]から過分な好意を受けたゲルマント大公夫人のユイシエ[取りつぎ守衛役の従僕]。なんとか名前を聞きだそうとする彼にイギリス人を装うことによって正体を知られまいとする公爵の臆病さが文末のカタコト英語によって強調されている。

これまで文末強調構文の3パターンを見てきた。第1のパターンはceとetreの変化形に導かれる通常の強調構文の変種であった。したがってその構文の強調性を疑う者はいない。同格語句を導く第2のパターンについてもそれが先の強調構文の指標が省略されたものだと考えることで納得がゆく。しかし第3のパターンについては事情が異なる。直接話法の要素を文に付けるときは通常は文末に付けるわけで,その形式上の事実自体を文末強調構文である証拠に使えない。直接話法の要素が文末に付いているケースはよく目にするが,それをいちいち文末の強調構文として特別な注意を払う者はいない。したがって第3のパターンを文末強調構文の諸例にするには別な根拠が必要であった。筆者はそれを文末要素とそれに先だつ要素との対比のなかに求めることにした。

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